漢方つぼ物語  (56)

 

(かん) (げん)

 

 「はい、お待たせしました。宮本先生に『イキイキ子育て〜子どもが幸せに育つ3つのつぼ』というタイトルでお話いただきましょう。」

 園長先生に促されて演壇に立つ。今年度は本当に先生づいている。昨年春からの盲学校非常勤講師も1年間のうちに170時間余りの授業を終えて、3年生を見送り1年生の経穴の授業も残すところあとわずかだ。二校の小学校での道徳のゲストティーチャーも、得がたい経験をさせていただいた。で、今日は保育所の保護者のみなさんを対象にしての「子育て教室」、うまくゆくかしらん。

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 私の本職は鍼灸指圧師です。日々、漢方のつぼに鍼や灸、指圧などの刺激を与えて痛みをとり、疲労回復のお手伝いをしています。とっておきのつぼを3つお教えしましょう。あたまのてっぺん、百会(ひゃくえ)のつぼ。頭痛から痔まで守備範囲の広いつぼです。湧泉(ゆうせん)。足の土踏まずのあたりで、青竹踏みをすると、名前の通り、元気の泉が湧いてきます。頭のてっぺんと足の裏に次いで3つ目は、関元(かんげん)。へそ下3寸、腹の底から力が出てくるつぼです。で、この3つのつぼで子育てがうまくいくかというと、それはちょっと保障できません。子育てにはまた、別のつぼがあるようです。

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 子育て第一のつぼは「ほめること」。先日テレビのドキュメント番組がわが国初の盲導犬であるシェパードの「チャンピィ」のことを取り上げていました。当初とにかく厳しくしつけようとしたがうまくいかない。イライラして奥さんに八つ当たりして夫婦げんかになってしまう。するとその家の飼い犬が少し離れたところに住んでいるお父さんを呼びに行く。お父さんの仲裁で仲直りする。そのとき調教師の奥さんが飼い犬に頬ずりするようにしてお礼を言うんですね。

「私たちがけんかしたからお父さんを呼びに行ってくれたのね。ありがとう。」

犬を抱きしめている妻の姿を見て、調教師ははっと気がつく。

(自分は厳しく仕込むことばかりを考えて、一度としてこんなふうにほめてやったことはなかった。よし、明日からは一つでも覚えたら精一杯ほめてやろう。)

翌日からは調教はスムーズに進み、約束の期限までに依頼主に引き渡すことができたのです。ほめる・励ます・抱きしめる、が子育ての基本です。

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 第二のつぼは「子どもの人格を尊重する」。これは過日、NHKのラジオで産婦人科のお医者さんが言っていたお話ですが、胎児記憶つまりお母さんのおなかの中でいたときの記憶を誕生後、子どもがどれくらい覚えているかを調べるための聴き取りをする中で、少なからぬ子どもがこんな話をしたのだそうです。

「お花畑で遊んでいたら『生まれる順番が回ってきましたよ』って言われて、広場へ集まると今度は『お母さんを選びなさい』といわれた。それでお母さんを選んで生まれてきたの。」

子どもにそう言われたお母さんは、それまでは半分、自分の所有物みたいな感覚だったのを改めて、子どものことを、ひとりのの独立した人格として認めた子育てをするようになったと口をそろえて言っていたのだそうです。ただし「お父さんを選んだ」という子どもは一人もいなかったそうで、父親としてはいささか残念ですが…。

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 子育て第三のつぼは、「子は親の鏡であることを自覚しよう」ということです。世界中でベストセラーとなった子育ての名著「子どもが育つ魔法の言葉」は、その冒頭に「子は親の鏡」という詩を掲げています。「けなされて育つと、けなすようになる」から始まり、「とげとげした家庭で育つと、乱暴になる」、「不安な気持ちで育てると、子どもも不安になる」、「励ましてあげれば、子どもは、自信を持つようになる」「見つめてあげれば、頑張り屋になる」などと列挙して、「和気あいあいとした家庭で育てば、子どもは、この世の中はいいところだと思えるようになる」で締めくくられています。

 「子は親の鏡」だからといって、親が子どもにいつも模範的であれ、と申しているのでは決してありません。本音を隠してつくろった建前など、子どもはたいてい見抜いてしまうものです。「子どもは親の言うことではなく、親のすることを真似る」というのは、そこのところを言っているのでしょう。それなら、せめて子どもには、辛いことや苦しいことの多い世の中を「結構楽しいものだよ!」とたくましく生きている姿を見せることによって、「ああ、この世の中も捨てたものでもないのだなあ、人生って案外その時々に楽しいこともたくさんあるのかもしれない」と感じさせてあげようではありませんか。「愛する子どもの生きる力は、日々たくましく生きる親の姿から生み出される」と申し上げて、今日のつたないお話の結論とさせていただきます。

             (平成16312日 岬町立緑ヶ丘保育所にて)

 

〔関元(かんげん)〕身体前正中、任脈の4番目のつぼ。

取穴:へそと恥骨上縁との間で、恥骨寄り5分の2

治効:下痢・腹痛から頻尿、性欲減退・不妊症等に。



 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。
  尚、前段の物語の部分はフィクションです。


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