漢方つぼ物語  (57)

 

(ちゅう) ()

 

 新入生の皆さん、本校理療科にご入学おめでとうございます。私は皆さんに経絡経穴(けいらくけいけつ)概論という科目を担当させていただく宮本年起です。簡単に自己紹介をします。昭和27年7月生まれの51歳、妻がひとりと娘が2人。宮本鍼灸指圧院の二代目院長で、この学校へは非常勤講師として二年目の勤めです。特技は腹話術、そのうち授業中に、披露するかもしれません。

***

 さて、現在中学校二年生の下の娘についてちょっとお話します。小学校1年生の終わり頃に算数に苦手意識が芽生え始めました。でもあるきっかけでそれを乗り越えて、そのおかげで数学は今も嫌いではありません。ではどうやって苦手意識を克服したのでしょうか。秘密の鍵は、「掛け算の九九」にあります。小学校二年生で習う九九を先回りして予習し、「苦手」を「得意」に大逆転した、というわけです。掛け算の九九それ自体は、単に暗記すればよいだけのもので、根気よく覚えさえすれば、誰でもマスターできるものです。

 似た例をもう一つ挙げてみましょう。皆さんパソコンはお得意でしょうか? パソコンもしくはパソコンを通じてのインターネットは、もはや時代の必需品。

先日、NHKラジオの障害者向け番組を聴いておりましたら、

「最新の情報をキャッチするという点においては、目が見えるか見えないかの差より、インターネットを扱えるか扱えないかの差のほうがはるかに大きい。」

という意味のことを言っておりました。ところがパソコンを習うにあたっては、ひとつの越えなければならない「壁」が存在します。それはキーボードです。なんでキーボードはあんなにアルファベットをばらばらに散らばらせているのでしょうね。きちんとAからZまで順に並べておいてくれれば見つけやすいのに…。キーボードを克服するには、ひたすら「からだに覚えこませる」ことしかありません。つまり叩こうとするキーに指が自然と伸びるまで、練習を重ねるしかないのです。いちいちキーボードに視線を落とさずに打つことを「ブラインド・タッチ」といいます。英語でブラインドとは目が見えないことを意味します。視覚障害者に対して幾分、失礼な表現かもしれませんが、ここは、「目のご不自由な方でも、パソコンは十分、使いこなしていただけますよ」と言ってくれているのだと、明るく受け止めておきましょう。

***

 さて「経穴」つまり「漢方のつぼ」の勉強を始めるにあたって私はどうして「掛け算の九九」や「キーボードのブラインド・タッチ」のおはなしをしたのでしょうか? それは、経穴学は東洋医学にとって、あたかも算数においての掛け算の九九、パソコンにとってのキーボードと同じ意味を持っているように思われるからなのです。九九を知らずには計算をスムーズに行えないように、キーボードに触れずにパソコンを扱えないように、経穴についての正確な知識なくして漢方の治療は成り立ちません。しかも経穴はすらすらと口について出るくらいに、指が自然とつぼの位置にぴたりと止まるくらいに、からだに覚えこませてこそ自由自在に活用できるのです。どうですか、掛け算の九九やブラインド・タッチに、いよいよ似ているではありませんか。

さて、そのつぼが並んでいる生命エネルギーの通り道が経絡です。からだの中心線を「正中線」といいますが、前後に各1本で計2本あります。さらに、手足を中心に胴体を左右対称にめぐっている経絡が12本あります。手の内外に各3本、計6本と足の内外に同じく各3本で計6本、合計12本です。腕の付け根、肩関節の前から出発して腕の内側を通り指先まで行き、指先でくるりと反転して腕の外側を肩に向かい、胴体から足の外側を経て足先へ、足の指先でくるりと反転して、足の内側を通り元の肩に戻る。これを3回繰り返します。

正中線上の二経絡と手足の十二経絡をひっくるめて、「十四経」と呼びます。

***

 さあ、これから私たちは一緒に十四経とその経穴を学んでゆきます。それは、

布を織る作業になぞらえることができます。皆さん、布を織るのはどうするか、

知っていますか? そう、縦糸と横糸を編みこんでいくのですね。

まず、経穴の並びを流れの順に学びます。これが縦糸。次に、横並びの経絡

のつぼ相互の位置関係を学びます。これが横糸というわけです。布に美しい色とりどりの模様を編みこみたいとは思いませんか? 布を着物に仕立てたときに、袖口や裾(すそ)を飾る五色の模様に相当するのが五行穴という名で呼ばれる要穴。背には背部兪穴(ゆけつ)という要穴が規則正しく並び、おなかや胸には募穴(ぼけつ)が散りばめられてゆきます。

 なんだかわくわくしてきませんか?

 ではさっそく、手足をめぐる十二の経絡の最初の経絡、肺経の最初のつぼ、中府(ちゅうふ)から勉強を始めましょう…。

 

〔中府(ちゅうふ)〕手の太陰肺経の最初のつぼ。肺経の募穴

取穴:任脈華蓋穴の外方6寸、鎖骨下窩で大胸筋の張った所よりやや上方。

治効:咳嗽、気管支喘息、感冒、上肢挙上不能。



 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。
  尚、前段の物語の部分はフィクションです。


[前のページへ] [次のページへ] [メニューへ戻る]
[トップへ戻る]


社団法人 和歌山県鍼灸マッサージ師会
 〒640-8341  和歌山市黒田97−14
 電話  073-475-7771  FAX   073-474-2241

 メールはこちらまで  info@washinshi.com