漢方つぼ物語  (62)

後(こう) 谿(けい)


 ここに一枚の写真がある。異国の家族と私がVサインして笑っている。それは私の「もう一つの家族」アバード・ファミリー…。
 平成16年、中学2年の夏の想い出、オーストラリア海外語学研修をつたない短歌でつづる「うたものがたり」のはじまり、はじまり…。
***
  語学力 乏しくあれど 赤道を 隔てる国へ われは 旅立つ
 私の英語が通じるかな?全然通じなかったらどうしよう! 不安でいっぱい。でもオーストラリア行きの飛行機は関西国際空港を飛び立った。出発の前夜、お父さんがパソコンを使ってメッセージ・カードを作ってくれた。カードには、「ジャスト・コール・ミー・チカ(知佳って呼んでね)!」
「アイ・ウッド・ライク・トゥー・ラーン・エブリシング・アバウト・オストレイリア(オーストラリアのこといっぱい教えて)!」
って、カラフルに書いてある。
***
ひげもじゃの父さん 肝っ玉お母さん 5人のきょうだい われもファミリー
牛五頭 犬三匹に 鶏(とり)たくさん いのちあふれる 家にステイす 
 そして、オーストラリアで私を迎えてくれたのは、底抜けに明るいホスト・ファミリー、アバードさん一家だった。お父さんは口ひげ・あごひげ・頬ひげをたっぷりたくわえたウエイン・アバードさん。力持ちの職人さんだ。色白でふくよかなお母さん、マーガレット・アバードさんは地元の学校の先生。研修中にこのお母さんが勤める小学校で授業を受ける機会があった。そして二十歳で社会人のお姉さん・レニーをかしらに2歳刻みで、18歳のブライアン兄さん、二番目のお姉さんである16歳のクリスティン、三女のダニエルは私と同じ14歳、愛らしい末っ子のジェマは12歳。一男四女のにぎやかな家族に私と、私の同級生の紀和ちゃんがステイすることになった。
  初めての夜 枕辺にプレゼント カンガルーとコアラの人形
 最初の夜、枕元にカンガルーとコアラの縫いぐるみが置かれていた。マァム(お母さん)からのプレゼントだった。なれない外国で寂しくないように、という優しい気持ちがいっぱいこもっていて、うれしかった。
 また、週末には私たちによい想い出になるようにと、いろんな場所に連れて行ってくれた。ショッピングや海辺の散策、動物園でカンガルーにえさをやったり、コアラや鳥といっしょに写真を撮ったり、盛りだくさんの休日だった。カンガルーは野生のものが郊外を走り回っていて、マァムの車に乗せてもらって学校から帰るとき車にぶつかってきそうになった。さすがオーストラリアだ。
 日本では暑さの厳しい夏だけど、私が滞在したオーストラリアの東海岸では晩秋に近い季節だった。明け方、かなり冷え込んだので、紀和ちゃんが風邪を引いてしまった。いつか私が風邪を引いたとき、しん灸師である父がやいとをすえてくれた。手を握ったとき小指の付け根にできるしわの先っぽのつぼに、小さいやいとをみっつばかりすえてもらったら、嘘のように風邪が吹っ飛んだことを思い出した。でも、オーストラリアにはもぐさはないみたい。残念!
 紀和ちゃんの風邪も治り、ある晩、私たちがホスト・ファミリーのみなさんに日本食をごちそうした。といってもふりかけをまぶしたおにぎり。何種類かのふりかけの中でもシソがとりわけ好評だった。みんながニコニコしながら、
“Good!”って言ってくれた。やったー、イエーイ!
***
  ただでさえ言葉通じぬ者同士 秘めごと語れば なおもどかしき
  しっかりと 見つけた南十字星 道迷っても 家に帰れる
  お別れの朝 学校へ急ぎたる車 見送るカンガルーあり
 そして、ちょうど私の14歳のバースデーの日に、私は日本に帰ってきた。
想い出は尽きない。
 「ね、あなたたち、キスしたことある?」
と、声をひそめて話しかけてきたクリスティン。南十字星の位置を、指さして教えてくれたダニエル。Sサイズでも日本のLサイズより大きいマクドナルドのハンバーガー。帰る私たちを見送ってくれたカンガルー。朝ごとにそうぞうしい鳴き声で私たちをたたき起こしてくれた3匹の番犬たち…。
 ぎこちない英語で一生けんめい話したオーストラリアの10日間は、私の青春の宝物だ。サンキュー、アバード・ファミリー。アイ・ラブ・オストレイリア!

〔後谿(こうけい)〕小腸経第3穴。膀胱経申脈穴と組み合わせて奇経治療にも。
 取穴:手を握り、小指の付け根の関節の少し手首よりにできるしわの先端。
 治効:風邪引きのほか、寝違いにも効果がある。

《漢方つぼ物語の本来の作者である父からの一言》 今回のつぼ物語はすっかり娘に「丸投げ」してしまいました。お詫びに一首。
豪州へ 吾娘(あこ)乗せ飛行機飛べる夜は 稲光して 寝ずに明けつる
(娘がオーストラリアに向かっている夜、稲光のまぶしさに目が覚めた。)

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。


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