漢方つぼ物語 (63)
意(い) 舎(しゃ)
和歌山県立青陵高等学校は定時制高校。その青陵高校で、禁煙教育の機会を与えられた。未来を背負って立つ若い学生たちに面と向かってお話できるのはうれしいこと。二つ返事で引き受けた。2004年11月1日夕刻、そのときはやってきた。この日のために私は、とっておきの腹話術ネタを用意した。三体の腹話術人形を用いて、人形劇風に演じる「人形家族の禁煙物語」である。
***
(まず父親の人形が登場。口にタバコをくわえている。)
父親:今日も元気だ、タバコがうまい! 世の中でタバコほどうまいものは
ないねえ。
(息子の太郎が学校から帰ってくる。)
太郎:ただいま! ごほん、ごほん。すごいけむり。お父さん、今日学校で
タバコの害のお話があったよ。タバコには約四千種類の化学物質が含ま
れていて、約二百種類が有害で、発癌物質は四十種類近いんだって!
父親:なに言われたって、こんなうまいものやめられないね。おっと、もうなくなっちゃった。母さん、タバコ切らしちゃった。買ってきてくれー。
太郎:母さん、母さーん。あれえ、母さん、どこへ行っちゃったんだろう?
(母親の「かきおき」を見つけて)「かきおき」って書いてある。母さんの字だ。「これ以上、お父さんのタバコの煙に耐えられません。一人で旅に出ます。」 た、たいへんだ! 母さんが家出しちゃった。
父親:な、なんだって!? 母さんが家出した?
(娘の花子が登場する。)
花子:(やさしい口調で)父さん! 私たち、意地悪でタバコを取り上げようとは思わないけど、父さんにいつまでも元気でいてほしいのよ!
父親:うーむ…、よ、よーし、今日ただいまをもってタバコはやめる!
母親の声:あなた、ほんとう? うれしいわ!
太郎:あっ、母さんの声だ! 母さん、どこにいるの?
花子:この小さなバッグの中から声がする! 母さん、早く出てきて!
母親:(バッグからエプロンとお下げ髪のカツラを出し術者が身につけて)今
帰ったわよ! あなた、ありがとう。これからは煙のない幸せな生活ね!
***
11月5日には同じ青陵高校の昼間部定時制の学生たちにお話した。定時制は夜ばかりじゃなくて、昨今は昼間の定時制もあるのだ。
「前もって頂いてあった質問にお答えします。タバコをすっている人からの質問。(定時制高校だから、二十歳以上で法律上タバコを吸える年齢の者もいる)『タバコはなぜもっと安くならないのですか?』 続いてはタバコを吸わない人からの質問。『なぜ体に悪いタバコを売ることを国は許しているのですか?』
この二つの質問は非常に密接に関係しています。ポイントはタバコには税金がかかっているということ。そのパーセンテージはなんと62.3%、三分の二近くが税金です。だから高い、そして国としては捨てがたい財源である。でも、『俺たち愛煙家は国に貢献しているんだ』といばることはできません。タバコによって数多くの病気が生み出されて医療費がかさむ、そのマイナスのほうが大きいからです。…」
「次に、タバコを通じて、本当の自由とは何かを考えてみましょう。自由という言葉から連想するイメージは何でしょう。大空を自由自在に飛び回る鳥。本当に見ていてうらやましい気がします。でも動物学者は、『鳥たちは飛びたくて空を飛んでいるのではない』と言います。天敵から逃れるために、心ならずも空を飛んでいるのだというのです。もしそうだとすれば、鳥たちは空の上から私たち人間をながめながら、『人間っていいなあ。天敵におびえることもなく大地を踏みしめて歩けるとは、なんて自由で幸せなんだろう!』とうらやましがっているのかもしれません。欲望のまましたい放題をするのが真の自由でしょうか? 人間には高次元の自由が与えられている気がします。自らを律して体調を整え、まわりの環境をもととのえ、そして周囲の人々とすばらしい人間関係を築いていくことこそ、創造的な自由と呼べるのではないでしょうか。…」
***
禁煙教育の締めくくりに私はアラジンの魔法のランプを取り出し、なんでも願い事をかなえてくれるジニーを登場させた。そして突如2メートル半の「木の棒」を出現させて、あっけにとられている学生たちに語りかけた。
「これは木の棒です。縮めて言うと木棒(希望)。希望を失わずに、からだを大切にして、長生き(長い木)してください!」
話を終え拍手で見送られながら、タバコをやめるためにイライラしたときのために、意舎(いしゃ)のツボでも教えておけばよかったかな、と考えていた。
〔意舎(いしゃ)〕最大の経絡である足の太陽膀胱経の全63穴中の第45穴。
取穴:第11胸椎棘突起の下の外方3寸。
治効:胃の痛みや張りのほか、更年期や禁断症状のイライラに応用できる。
●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。
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