漢方つぼ物語  (68)
上(じょう) 星(せい)

 ある日本人がアメリカ人に言った。
「あなたの国は人種差別の問題があってやっかいですね。」
 そのアメリカ人は即座にこう言い返したという。
「確かに。しかしおたくの国の同和問題ほどではない。なぜあなたがたは同じ人種・同じ民族、外見上もなんら変わらぬ者同士で理不尽な差別をするのか?」
 げに我が国の同和差別こそは、世界に恥ずべき人権侵害と言うべきであろう。
7年前の秋、PTAの同和研修で大阪府堺市の同和資料館を訪問した日は私の腹話術の師匠・川上のぼる先生の子息、川上じゅんさんのデビュー・ライブの日であった。資料館の見学後、和歌山へ帰るバスには乗らず電車で大阪市内のライブ会場に直行することにした。資料館の職員の方に最寄りの駅の場所を尋ねたら、「マイカーでお送りしますよ!」といってくれた。ご厚意に甘えて送って頂きながら、(これは腹話術を同和問題解決に役立てよとの天の啓示だ!)と確信したのである。

***
 そしてその絶好のチャンスが訪れた。和歌山市と和歌山市教育委員会さらに和歌山市人権委員会主催の和歌山市人権フェスティバル2005。主な出し物は和歌山県出身の落語家・桂文福さんの講演。その前座を依頼されたのである。
「同和腹話術&人権マジックというタイトルでさせて頂きましょうか?」
「えっ、そんなタイトルでできるのですか? ぜひそれでお願いします!」
 この時、まだ「同和腹話術」の中身は全く具体化していなかった。まだ日もあるから何とかなる、とタカをくくっていたのだ。しかしその日は次第に迫ってきた。私は少し焦りだしていた。そんなある日、妻と子ども達を乗せてドライブしていたら、カーラジオから、「星影のワルツ」が流れてきた。妻が言った。
「なんで愛し合っているのに別れなきゃいけないんよ、なあ?」
おませな中学生の次女が言った。
「不倫ちゃうか? なんか病気があるのかもしれんし…。」
そのやりとりを聞いて、私の心に一瞬、ひらめくものがあった。(この歌は同和のにおいがする!) 私は家に帰るなりインターネットで検索した。そして見つけたのだ、「星影のワルツに秘められた同和問題」というサイトを! その内容は、星影のワルツは被差別部落の青年が自分の体験をつづった歌である、というものだった。私は叫んだ。「思った通りだ。よし、同和腹話術はこれでいこう!」

***

 物事が思い通りにいくときほど(これでよいのか?)と疑問を持つべきだ、といったのはピカソだったろうか? 星影のワルツを中心にまとめ上げた台本を私は、兄弟子でもあり当日、応援出演もしてくれる予定の千田やすしさんにファックスで送った。催しの6日前だった。すぐ千田さんから電話があった。
「台本受け取りました。でもね、星影のワルツ、あれは事実と違うんですよ!」
なんと、同和地区の青年が星影のワルツの真の作詞者、とのうわさは相当広く知れ渡っていたが、最近それが偽りであったことがわかった、というのである。私は動転した。話の中心はこれなのに、どうしよう? 私は頭痛と目のくらみを同時に感じた。星影のワルツの星にちなんで、上星(じょうせい)のツボを強くおして、ようやく落ち着きを取り戻した。(その青年はこの歌の歌詞があまりにも自分の体験と似通っていたので、つい「自分が作った」と言ってしまったのに違いない。そこを取り上げればいいんだ。台本の骨子はそのままでいい!)

***
○:千昌夫さんの歌う「星影のワルツ」をきいて「ああ、この歌はまるで僕のことを歌っているみたいや。」といった人がおります。
×:その人も悲しい恋をしたんやな。
○:お相手は心の優しい女性でした。二人は互いに愛し合い、結婚の約束をしました。
×:よかったやないか。
○:ところが女性の両親は「家柄が違う」と結婚に反対をしました。
×:こら、そんな時代遅れなこと言うな!
○:親孝行で心の優しいこの女性は、結婚を誓い合った恋人と結婚に反対する両親とのはざまで、大いに悩み苦しみます。
×:気の毒になあ!
○:愛する人が苦しむ様子を見かねて青年は、愛してやまない恋人との別れを決意したのです。
×:愛だけで幸せになれるほど、甘い世の中ではないけれど…
○:愛し合う者同士が、偏見や差別で引き裂かれることのない社会を、みんなの力で築いてまいりましょう!

〔上星(じょうせい)〕後ろ正中を上がり頭頂から前へ降りる督脈の第22穴。
 取穴:頭髪の前の生え際の中心と大泉門の「しん会(え)」のつぼとの中間。
 治効:頭痛・目眩(目のくらみ)、また鼻づまりなどの鼻の症状に応用する。


《作者から一言》お陰様で人権の腹話術は大好評、7年来の夢がかないました。

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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