漢方つぼ物語  (69)
神(しん) 闕(けつ)

 えー落語で楽しゅう東洋医学が学べるという、漢方亭ロマンがお届け致します、めっぽうかいタメになる漢方落語のお時間でございます。皆様方の健康とご家族の繁栄のために、しばらくのおつきあいをお願い申し上げます。

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「ご隠居はん、ごめんやす。金蔵でおます。」
「あれまあ、だれかいなとおもたら、こないだ結婚したばかりの金坊やないかいな。さ、さ、遠慮せんでええ、上がりなはれ。どないや?」
「わたいも所帯をもちました限りは、健康を心がけなと思いまして。ご隠居はんは漢方にお詳しいとか。ぜひとも元気のツボのお話などきかせて貰おうと。」
「ほうかいな、では漢方の基本から参りまひょ。ツボは正しくは経穴というて、てんでんバラバラに散らばってるんやのうて経絡というスジの上に並んでる。」
「ははあ、ほな経絡ちゅうのは骨董(こっとう)屋の店先の様なものですか?」
「骨董屋の店先?つぼが並んでるから?そのつぼやのうてヤイトをすえたり、ハリを刺したりのツボ。で、経穴が並んでる経絡はというと、肺の経絡すなわち肺経を皮切りに肝の経絡まで、手足の内外に合計12本走っておりますぞ。」
「なんと律儀な。初めに『拝啓』とあいさつしといて、締めくくりは『完』とエンドマークを出すわけや。昔の中国の人はなんと礼儀正しい。」
「勝手に勘違いして感心してるんやないで。で、経絡の流れはというと、胸の前を出発して手の内側を指先へ、指先から手の外側、さらに顔・胴体を経て、足の外側を足先へ、足先から足の内側を上り胸へ帰る。これを三回繰り返す。」
「えっ?胸から指先、顔から足の外と内?なんたる偶然の一致!私、そっくりその順番で昨日の晩、嫁はんをなでまわしたがな。うちの嫁はん、もち肌で…。」
「あんた、のろけにきてんのか、漢方の勉強にきてんのかどっちかにしなはれ。」
「すいまへん、手の内・手の外・足の外・足の内の順でおましたな?」
「肝心のとこはようきいてるやないかいな。で、手足の内側は陰陽でいうと陰、外側は陽。そやから経絡の流れる順序を陰陽で申しますれば、陰・陽・陽・陰。」
「それもまた偶然の一致! うちの会社とまるっきり一緒でんがな。いやね、仕事で用事をこなすとします。その費用をあらかじめ申告して、先にハンコを貰いまんね。で、用事を一つすましたあと、もう一つくらいフイな用事して、その分は事後承諾のハンコをあとでもらう。これすなわち、印・用・用・印…。」

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「あんたに基本の話をしてると時間がかかってしようおまへん。総論は省いて、いきなり各論と参りまひょ。からだの調子でなんぞ気になるとこはおますか?」
「よう尋ねてくれました。わたい、ありがたいことに親から根っから丈夫に産んでもろとりまんのやがついつい食べ過ぎておなかを壊すことがおますねん。」
「ようわかりました。ほなら、へその塩灸を伝授しまひょやないか。腹痛を起こしたときに仰向けに寝て、へその上にぬれた和紙を敷いて塩を置き、ヤイトをすえてみなはれ。おなかの芯にぬくみがしみ通って、スーっと楽になること請け合いでおます。」

***

 ご隠居さんに漢方を教わって何日もせんうちに食いしん坊の金蔵、大好物のタコの酢の物を食べ過ぎて腹痛を起こしよりました。
「いてて、このタコ、あんまりうまいのでつい食べ過ぎてしもた。あ、そうや、こないだご隠居さんに教えてもろた秘伝を思い出した。おーい、かあちゃん、へそを塩にぶっかけてヤイトや!え?へそを塩に、やのうて、塩をへそに、やろて?わかってたらそうせんかいな。あちち、塩がはぜて熱い熱い。おまけにへその中に塩がもぐりこんでかゆいぞ。指をつっこんで掻き出そう。あれ、えらいことになった。指が抜けんようになった。助けてくれー、ご隠居はーん!」
 金蔵、人差し指をへそに突っ込んだまま、ご隠居はんのうちに駆けつけます。
「いったいどないしましたんや?手の指をへそにくわえて?」
「タコ食い過ぎて、指が抜けんようになってしまいましてん。」
「物事は順序立てて言いなはらんかいな。なに、へその塩灸をしようと思うて?へそにじかに塩をふりかけた?あんた、ちゃらんぽらんな話の聞きようをするさかいに。ぬれた和紙を敷くのんを忘れましたな?大丈夫、おちつきなはれ。ハリをへそのまわりにぽんぽんと打って、はい抜けました、おめっとうさん!」
「ああ、よかった。一生指をへそに突っ込んだままで、どないして生きていったもんかと、気が気やおまへんでした。」
「よろしか?おへそは正式の名前を『神闕(しんけつ)』といいましてな、漢方のツボの一つでおまっせ。あだやおろそかにしてはなりまへん!」
「えっ、へそがつぼ!それで得心いきました。コトの発端は、タコの食べ過ぎでんがな。タコだけに、指がツボにはまりました。」
 お後の用意がよろしいようでございます。へい、おたいくつさま!

〔神闕(しんけつ)〕身体の前正中を腹部・胸部・顔面へと上る任脈の第8穴。
 取穴:へその中央に取る。直接に針灸はしないが他のつぼ取りの目印となる。
 治効:へそ灸・味噌灸などの隔物灸や温灸により腹痛や下痢、痔疾に用いる。


 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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