漢方つぼ物語  (70)
兪(ゆ) 府(ふ)

   社団法人全日本鍼灸マッサージ師会(略して全鍼師会)。全国に1万2千人の会員を持ち、47の都道府県師会を束ねる、我が国最大の鍼灸師・マッサージ師の業団体である。毎年5月、東京で定期代議員会・通常会員総会が開かれる。

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 機体に子ども達が喜びそうなポケットモンスターのイラストを描きまくった全日空機は、厚く垂れ下がった雲海を突き抜けて羽田空港に着陸した。ときに平成17年5月14日の夕刻のことである。午後7時という時刻の割に空が暗いのは、雲が厚いせいなのか、それとも和歌山に比べて経度が東に寄っているせいなのだろうか? 新宿で全鍼師会の二人の女子職員と合流して夕食をご一緒する。こちらは和歌山県鍼灸マッサージ師会の会長と副会長3名、事務職員の計5名。私にとっては副会長として初めての全国会議デビューである。
「あしたとあさってで4万円の金バッジを4個、売らなきゃいけないんです。」
 全鍼師会の職員達がそう話しているのを聞いて私はひそかに心に決めていた。
(よし、その4個のうちの1個は、この私が引き受けようではないか!)
明日5月15日の日曜日の午後が代議員会、あさって16日の午前が総会だ。

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 京王プラザホテル。新宿駅から徒歩10分の威風堂々たるこのホテルが会議の舞台であり、またわれわれの二泊三日のお宿である。代議員会を午後に控えた日曜の朝、土産物を買いがてら外出した。花園神社というお宮さんでがらくた市をひやかす。ろくなものはないが、おもちゃの獅子頭に目がいった。獅子舞の頭の部分だ。中に2本の糸があり1本を引くと獅子の口がぱくぱく動き、もう一本を引くと左右の耳が動く。ふむ、これは腹話術の人形として使えそうだ。金二千円也を支払って私の人形コレクションに加えた。

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 午後1時、代議員会の開幕。全国から集まった百名を大きく超える代議員達が議案に沿って意見を出し合う。鍼灸マッサージの保険取扱い条件改善の問題、無免許・無資格マッサージ対策、FTAつまり外国との相互貿易条約の中で他国のマッサージの資格を我が国のマッサージ免許として認めよ、と要求してきている問題…。翌日午前の会員総会も併せて、この業界が今抱えている数多くの問題を総ざらえして、そのあるべき姿を探る白熱の議論が繰り広げられた。その合間を縫って、私どもの業界を理解し応援してくれている国会議員たちが次々と会場を訪れて力強い挨拶をしてくれる。

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 代議員会を終えた晩、懇親の宴が催された。私どもの会長が私に耳打ちした。
「どや?金屏風の前で余興をせんか?」
 襟元に燦然と輝く金バッジが私を勇気づけた。金屏風には金バッジがよく似合う。宇宙と人体の構成要素である木・火・土・金・水を象徴する五つの星をかたどった金バッジをぐいと指でおすと、ズンと応えた。それもそのはず、そこはちょうどノドによく効く兪府(ゆふ)のツボの位置。ノドがすっきりして、体の芯から力が湧いてきた。さすが先天の原気をつかさどる腎経のつぼである。
私はひそかに持参したアヒルと蛙の人形、そして獅子頭を手に舞台に上がった。

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私「獅子舞はお正月でしょ。どうして出てきたの?」
獅子「四×四、十六。平成16年度をしまう総会だからシシマイ!」
私「では、アヒル君とカエル君に我々鍼灸マッサージ師にとって大事なものは何かを尋ねてみましょう。まずはアヒル君。」
アヒル「お金は大事だよ〜、アフラック!」
私「確かにお金儲けは大事です。しっかり働いて豊かになりましょう!でも、今のアヒルはどうやら保険会社のまわし者だったみたい。保険といえば、協同組合の保険もどうぞよろしく!では次にカエル君。」
蛙「初心にカエル!」
私「なるほど、わたしどもの本来の使命は、なんといっても訪れる患者さんを癒して楽になって貰うこと。今こそ鍼灸マッサージ師の原点にたち返って、一層がんばりましょう!」

〔兪府(ゆふ)〕足の土踏まずから胸に至る足の少陰腎経の最終穴。
 取穴: 鎖骨と第一肋骨の間で正中線から外方へ2寸(正中から乳首は4寸)。
 治効:嘔吐、胸痛、気管支炎に。ノドの痛みや咳を止めるのにも用いる。

《作者から一言》懇親会の余興で一人で二つの声を使い分けてデュエット曲を唄い拍手喝采を受けた代議員さんがいた。うーむ、負けてる。頑張らなきゃ…。


 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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