漢方つぼ物語  (72)
四(し) 白(はく)

 会場の正面横の大型スクリーンは色鮮やかなねぶた祭の山車(だし)を映し出し、舞台上では本物のお囃子の一団が大太鼓・笛・鉦(かね)を鳴らしている。そして客席の合間を縫って浴衣に花笠姿の男女が踊り始める。跳人(はねと)と呼ばれる通り、左足ぴょんぴょん右足ぴょんぴょんとなんとも軽快な踊りだ。
 平成17年7月18日夜、ここは青森県三沢市の古牧温泉。22万坪の広大な敷地に三千人が宿泊できるホテルと、二千人が同時に入れる岩風呂や絶景を誇る露天風呂が設けられている。そのホテルの宴会場は今まさにねぶた祭一色。
 実はこれ、第4回全鍼師会大会のハイライトシーン。来賓も含め450人の大会参加者が親睦を深める懇親会の一こまである。ひとしきりねぶた囃子を楽しませてくれたあと、大太鼓衆が客席に呼びかける。
「さて、今日は特別に皆さま方にも大太鼓を体験して頂きましょう。大太鼓を叩いてみようと思われる方、ご遠慮なく舞台にお上がりください!」
 太鼓の大きさに圧倒されてか手を挙げる人がない。そのとき、和歌山からご一緒している副会長の山中先生が叫ぶ。
「和歌山代表、宮本先生行きます!」
 それを和歌山の堀会長が司会者に伝えたらしく、私は杉田全鍼師会会長を含む3名の先生方と共に舞台に上がり、めったに経験できないねぶた太鼓演奏の光栄に浴することとなった。弓のようにしなった細身のバチで左・右・左・右と鼓面を叩くと、それに合わせて笛と鉦を鳴らしてくれる。いい気分である…。

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 大会は2日間にわたり催されるが、堀会長が大会実行委員長を務める関係上、私ども5人の副会長も前日から会場入りして、資料の袋詰め作業を手伝った。
 18日午後1時、いよいよ開幕。全国の鍼灸マッサージ業友が技を磨き情報と意見を交換する中で国民に、より上質の医療と情報を提供することを目的とする全鍼師会大会は今年、ここ青森の地でにぎにぎしくその開会が宣言された。
 最初に私が参加した分科会は現在、私どもの業界が避けては通れない大問題、無免許マッサージ対策を論じる部会である。既に全国45都道府県の議会において、無免許治療について法律遵守を求める請願が採択されていることが報告され、違反者の摘発・逮捕が続出する中で、ご当地でも最近、青森市と弘前市で、無資格治療に罰金刑が言い渡されたという。

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 次に参加したのはスポーツセラピー部会。国体などのスポーツ大会に、鍼灸マッサージ師が積極的に参加・協力して選手たちのケアに当たってきていることは毎年の大会で報告されているが、今回は経験豊富な4人の先生方が実技の内容を披露してくれた。その中でもとりわけ参考になったのは熊本の草川先生の膝関節痛の治療の実際。
 氷嚢(ひょうのう)で患部を冷やすときには塩をひとつかみ加える。これによって零下15度まで低温にできる。この氷嚢を素早く動かして患部を冷却し痛みが取れたところで冷やすのをさっとやめる。ふくらはぎ(腓腹筋)や向こうずねの筋肉(前脛骨筋)、またアキレス腱の緊張状態を確かめる。強い緊張のある部位は感受性が高まっているので、切皮(せっぴ)すなわち軽く鍼の先を入れる程度の刺激で十分効果がある。膝の皿(膝蓋骨)の下の内と外にある膝眼穴(しつがんけつ。膝の正面を顔に見立てたとき、ちょうど眼の位置に当たるのでこの名がある。)の鍼も膝の痛みを和らげるのによい。この場合、むしろ痛みのある側とは反対側に鍼をした方が有効だという。不思議に思ってその理由を質問すると、痛みにより患部の感受性が高まっている場合は、むしろ反射的な効果をねらう方がより良い効果が期待できるからだとのご回答であった。

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 二日目の分科会の中で私が選んだのは「介護予防」。介護保険法も制度見直しの5年目を迎え、倍にふくれあがった経費を抑えるために介護予防という観点が重要視されるに至った。要介護度を上げずに自立を促すための手だてである。
 東洋医学は「未病」すなわち未だおもてに現れていない病を治すことを理想とする。これはまさに予防医学であり介護予防にもつながる。とそんなわけで「未病治という名の介護予防」と題したこの分科会のハイライトは漢方の経絡を応用した東洋医学に基づくストレッチ法。先般、保健所から「家庭で介護に励んでいる方を元気づける講演」の依頼を頂いたが、これにもぴったりのお話だ。千qの旅をして東北まで勉強に来た甲斐があったというものだ…。

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 仲間たちの結束を深めて大成功の内に大会は幕を閉じた。耳元にねぶた囃子の余韻を残して。ところで「ねぶた」は眠気つまり「ねぶたい」からきているのだそうだ。農作業の敵である眠気を追い払うための祭りがねぶたなら、眠気覚ましのツボは四白あたりか、と思ったところで旅の疲れで寝入ってしまった。

  〔四白(しはく)〕顔面から胸腹部を経て足の第2指に至る胃経2番目のつぼ。
 取穴:ひとみ(瞳孔)の下1寸。動脈・神経の出る穴(眼窩下孔)のところ。
 治効:頭痛・めまいを代表とする眼や顔面のトラブルに幅広く用いられる。

《作者から一言》
 私にとって生まれて初めての東北の旅は収穫の多いものとなりました。青森の方言特有の歌うようなイントネーションが懐かしくよみがえります。素朴で温かい、かの地の人々そのままです。


 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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