「家庭における子どもの人権〜子どもが幸せに育つ3つのツボ〜親の立場からの提言」というタイトルでお話させて頂きます。
先日、和歌山城公園で「アッ!」と息をのむようなシーンを目撃しました。それはまず、可愛らしい子どものリスがあわてふためいて木の上から降りてきたところから始まりました。何を急いでいるのか、そのわけはすぐに分かりました。子リスのあとを蛇が追いかけていたのです。そして、さらにその後ろを、親リスが追いかけています。なぜ親リスだと分かったか? 次の瞬間、目の前の蛇に爪を立てて、がぶりと食い殺してしまったからです。そのあと、親リスはちょうどクロネコヤマトの宅急便のシンボルマークのように、子リスの首をくわえて木の上に戻ってゆきました。その間、わずか十数秒の出来事でした。公園を散策していて、たまたまその場に居合わせた人たちは口々に親リスの、わが子を思うがゆえの勇気を讃えました。
ひるがえってその晩、テレビのニュースは人間世界のこんな出来事を報道しておりました。若い母親が、乳飲み子をくるまに残してパチスロをしていた。パチスロというのはパチンコ屋さんにあるスロットマシーンのことで、このところ人気があります。途中さすがに赤ちゃんのことが気になってくるまに戻って様子を見たら、わが子はすやすやと寝入っている。安心して今度は本腰を入れてパチスロに熱中した。心ゆくまで楽しんだあと帰ろうとくるまに戻ったら、子どもは熱中症で息絶えていたというのです。命がけで子どもを守った親リスとの対比があまりにも際だっていたので、忘れがたい一日となりました…。
わが国も調印している「子どもの権利条約」は、さまざまな子どもの人権を規定しています。でも家庭にあって最も重要な子どもの権利は「しっかりと家庭でしつけられる権利」ともいうべきものではないでしょうか? それゆえに私ども親は「しっかりと子どもを育てる」大きな責務を負っていると申さねばなりません。いまこそ家庭の教育力を取りもどすときだと提言し、そのための具体的な手だてをご一緒に考えてみようと思います。
さて、私は鍼灸マッサージ師であります。毎日、ツボに刺激をして患者さんの痛みやしびれを癒しています。なんと全身に365あるとされるツボの中でその名も「けんり」という、今日のお話にぴったりのツボがあります。ただし字は違います。「けん」は一生懸命の「懸」、「り」はふだんあまり使わない難しい字で、一枚二枚の「枚」の木偏を「未来」の「未」に変えて、その下に「何分何厘」というときの「厘」の字を書き、「道筋」とか「治める」という意味の字です。この懸釐というツボはこめかみの少し下にあって偏頭痛によく効きますので、子育てに悩んで頭が痛くなったときなどにぜひ一度おためし下さい。
私が今日お話したい3つのツボとは漢方のツボではありません。でも漢方のツボと同じくらいよく効く特効のツボです。
その一番目は「ほめること」です。子ども野球の指導者がこう言います。
「昔はひっぱたいてもしがみついてきたが、昨今はほめないとついてこない。空振りしても『ナイス・スイング! 球が当たってたらホームランだったよ。』盗塁に失敗しても『ナイス・トライ! スタートが早かったら成功してたね。』と、とにかくほめまくる。」
ほめられて気分良く舞い上がったところで、タマの当て方、早いスタートの切り方を教えこむのがコツだそうです。
二つ目のツボは「はげますこと」。これも少々コツが必要です。やみくもに「がんばれ、がんばれ」ではダメ。能天気に「大丈夫、きっとうまくいくよ」ですと、「気休め言わないでよ、そう簡単じゃないんだから!」と言われかねません。さっきの「ほめる」にしても、この「はげます」にしても、よく空気を読む、つまり的確な観察力が前提となります。日頃から子どもの行動やその思いをしっかりとつかんでいてこそ、ここという時のほめ言葉、励ましの一言がじんわりと効くのです。病状を把握してから打つ一本のハリが効くのと同じ理屈です。
三番目はズバリ、「だきしめること」です。これで三つのツボがそろいました。「ほめる・はげます・だきしめる」、なかなか語呂がよくて覚えやすいでしょう。これらは子どもに対してだけでなく配偶者にも有効、と付け加えておきます。
最後に「じょうずな子どもの抱きしめ方」を考えてみます。
ある父親は息子さんから将来の進路について真剣に相談を持ちかけられて、
「うーん、お父さんもいまだに本当に何がしたいのかよく分からないんだ。」
と、本音を漏らしました。生身の姿をさらすことも一つの「抱きしめ方」です。
また高校生になったわが子の気持ちが理解できなくなって、子どもの聴いている音楽に耳を傾ける中で大きなヒントをつかみとった母親もいます。
白血病を患っている幼い女の子が母親にこうたずねたそうです。
「おかあちゃん、わたしが死んだら、わたしのからだはどうなるの?」
そのとき、母親は少しもあわてず取り乱さず、にっこりほほえんで答えました。
「おまえが死んだら、かあちゃんのポンポンにかえって、元気なからだでまた『オンギャア』って生まれてくるんよ!」
死期が迫り蒼白になっていた女の子の頬に一瞬、赤みがさしたと申します。 命の火が燃え尽きる寸前の子どもにとってさえ、親の懐というものは優しくて力を与えるものです。どうかしっかりとお子さまを抱きしめてあげて下さい。
(平成17年11月13日和歌山市立今福小学校での教育講演の要約です。)
〔懸釐(けんり)〕目尻から足の薬指に至る足の少陽胆経の第6番目のツボ。
取穴:側頭部の髪の生え際の一番下で、耳の方へと曲がる角っこのところ。
治効:顔の火照りやのぼせ、偏頭痛。思いわずらって食欲不振のときにも。
《作者から一言》
平成17年の秋は講師として飛び回りました。保育園で中国語を、小学校で腹話術と手品、盲学校で経穴学と経営学を教えるのは以前からのことですが、小学校の道徳ゲストティーチャーもますます気合いが入ってきました。大学祭では例の映画の仙人姿で語りかけ、シニア・カレッジ(老人大学)の福祉・健康コースでは「明るく生きるコツとツボ」を論じました。地域の婦人会に招かれての人権講演では「同和腹話術&人権マジック」を演じて偏見のない社会を訴えかけ、平均年齢87歳の軍人恩給受給者連盟の総会では「元気のでるツボ」を伝授しました。老若男女、さまざまな世代の人々と関わる中で、子どもの頃からの希望、すなわち「人間相手の仕事がしたい!」という夢が現実のものとなっていることに大きな喜びを感じています。 (宮本)