漢方つぼ物語(80)
飢(き) 点(てん)

 光陰矢の如し。思いがけなく県立盲学校へ非常勤講師として招かれて3年の月日が流れた。理療科の学生たちに経穴を教える貴重な経験、図書室で東洋医学の豊富な資料に触れる恵まれた環境。県民と業友にその恩返しをする絶好の機会が与えられた。私の所属する社団法人和歌山県鍼灸マッサージ師会が主催する「健康セミナー」において講師をつとめることになったのだ。といってもこれは私が自分から売り込んだのだ。理由は二つ。まずは会の財務担当役員として講師料を節約するため。そしてこの3年間の盲学校での研鑽の成果を発表し、同業の仲間の批評を受けるとともに、できれば県民の健康に役立ちたい!
 Xデーは2006年3月5日日曜日の午後、和歌山市の和歌山ビッグ愛にて。

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 会の有能な事務職員がNHKテレビのローカル番組で催しの宣伝をする機会を設定してくれた。「わかやまNEWSウェーブ」の「いこら告知板」というコーナーだ。会名入りの白衣姿ではりきってPRした。当初のもくろみでは、おじいちゃんと女の子の2体の腹話術人形を両手に持って声を使い分けながら、
「お年寄りも、お若い方も、どなたでもご自由にご参加いただけます!」
とやろうとしたが、「わずか1分間のコーナー、そこだけ唐突に人形が出てくるのでは絵がつながりにくい」とのことで、断念した。しかし秋の腹話術発表会は、ぜひこのコーナーで存分に人形を駆使してどうぞ、と言ってくれた。

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 催し当日は爽やかな好天に恵まれた。午前中の保険取り扱い研修から引き続き参加した会員73名と、テレビや新聞で知って足を運んでくれた一般参加者約100名とで会場は満杯。いよいよ私の出番だ。広報部長・畠中先生の紹介を受けて壇上に登る。
「自分で出来るつぼ療法、当会きってのエンターテイナー・宮本副会長!」

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 「まずは東洋医学の本髄を知るキーワードを二つ。中庸(ちゅうよう)、つまり丁度いい塩梅(あんばい)。そして未病治(みびょうち)、いまだ表に現れていない病気を治す。これらが東洋医学のめざすものです。次に東洋医学の理論を理解するためのキーワード。身体を循環する生命エネルギーである気(き)と血(けつ)。気は目に見えない、無形のエネルギー。血は血液を代表とする液性の循環エネルギー。さらに気血が循環する道筋としての経絡(けいらく)と経絡上の要所である経穴(けいけつ)。高速道路・鉄道を経絡とすれば、インターチェンジ・駅に相当するのが経穴、つまり漢方のツボなのです。」

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 「ツボは正規のものだけで全身に365あります。1年の日数と同じ。経絡は手足に12本。月の数と一致していますね。このことは、人体には大宇宙を循環するエネルギーと同じものが巡っているという東洋医学の考え方を表しているように思われます。人体が大宇宙の縮図なら、身体の部分も全身の縮図と考えてもいい。それを応用した健康法をご紹介しましょう。まずは耳のツボ。耳は妊婦の子宮の中、羊水に浮かぶ胎児の姿といわれます。胎児は逆子でない限り頭が下。だから耳たぶが頭部です。耳の穴の周辺には内臓のツボが上下逆さまに並び、耳の輪郭をなす軟骨は背骨。痩せるツボは「飢点(きてん)」です。耳の穴のフタに相当する軟骨の縁(ふち)にあります。このツボは耳の穴の少し外上にある胃点とともに、強い刺激を与えることにより食欲を抑制する効果があります。ここに小さい鍼を絆創膏で貼り付けておくと、ダイエット効果が期待できます。これはぜひ、国家資格のある鍼灸師にしてもらってください。耳のツボはその場所に対応する症状に効果を発揮します。耳全体をよくもんだり引っ張ったりすると全身の健康を増進できます。老人性難聴に効く、とっておきのやり方をお教えします。反対側の手で耳を放射状に、つまり上は上に、横は横に、下は下に、引っ張るのです。なぜことさらやりにくい反対側の手でするかというと、耳に通じている腕の外側及び脇腹の経絡をストレッチすることで効果を倍増するのです。これはお試しになる値打ちがありますよ!
 同じように足の裏にも全身のツボがあります。足の親指が頭。親指ととなりの指の間がノドで食道・気管を経て胃と肺につながります。胃の内側のやや前が心臓、肺の外側が肝臓です。両足裏を並べた状態が内臓の縮図で踵(かかと)が腸です。ぜひ、ご自分の気になる部分をよくもみほぐしてください…。
 さて、人間が宇宙の縮図であるなら、私たちの生活する環境と切り離して、個人の健康はあり得ません。地域社会をよりよく整え、国際関係をいい状態に保ってこそ、みんなが健康と幸福を享受できるのです。東洋医学の理念は地球環境が危機にさらされ、人の結びつきが希薄になり、国際緊張の高まった現代において、いよいよ大きな役割を期待されているように思われます。」

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 約1時間の講演のあと、質疑応答のコーナーを設けた。畠中先生に助けてもらいながら、いくつかの質問に答えた。その晩、妻が言った。
「もし誰も質問しなかったら、私が手を挙げて質問しようと思っていた。『夫の存在がストレスになるのですが、どうしたらいいでしょう?』ってね。」
私はすまして言った。
「ぜひその質問をしてほしかったね。『それは昨今よくある症状。夫在宅症候群といいます。特効薬は一つしかありません。ひたすら夫に感謝と尊敬を捧げ、尽くして尽くして尽くし切ることです!』って解答してやったのに。そのあと、『今質問したの、私のカミさんですねん。』ってそう言ったら、爆笑間違いなし。ああ惜しいことをした!」

〔飢点(きてん)〕耳ツボ療法に用いられるツボ。正規のツボには含まれない。
取穴:耳の穴の上にかぶさっている軟骨の出っ張りの少し上の縁にある。
治効:胃点(胃に対応する耳のツボ)とともに食欲抑制・痩身の効果がある。

《作者から一言》講演「自分で出来るつぼ療法」は、インターネットでおききいただけます。  〔講演〕自分で出来るつぼ療法  をクリックしていただくと1時間の講演と20分間の質疑応答が臨場感たっぷりに流れます(ただし音声のみ)。


写真は、当日のスナップです。


 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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