漢方つぼ物語(84)
裏(うら) 内(ない) 庭(てい)

 梅雨まだ明けぬ平成18年7月8日土曜日の夜、和歌山を一台の貸切バスが出発した。めざすは山口市湯田温泉。年に一度、全国の鍼灸マッサージ業友が寄り集う全鍼師会大会の今年度の舞台だ。昨年が本州最北端の青森県、今年は一転、本州最西端の山口県での開催というわけだ。
 夜通し走り続けたバスは翌9日の日曜日、早朝6時にホテルへ到着。ただし、ここは会場でも宿泊予定のホテルでもなく、朝風呂と朝食を頂くだけの仮の宿。大会開始時刻の午後1時まではたっぷり時間があるので山口市内を観光する。
 まず訪れたのはザビエル記念聖堂。長崎の平戸に初めてキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルの日本における二番目の伝道の地は、山口であった。いましもミサが始まるところ。ステンドグラスの美しいこの聖堂で、讃美歌のシャワーを浴びれば世俗にまみれたこの身もさぞかし清まるであろうが、「観光の方も歓迎、ただし途中退席お断り」とのことで断念。ところで、一つ疑問が残った。掲げられていた横幕に「ザビエル生誕○百年」とかかれていた。今年がちょうど何百年かの記念の年にあたるようなのだが、肝心の数字がねじれて見えない。そのあと二つの禅寺を観光。まずは臨済宗常栄寺。涙でねずみを描いた逸話で知られる画聖・雪舟が作った庭園がある。次いで曹洞宗瑠璃光寺。国宝の五重塔が有名。山門に年配の観光ボランティアが待機していて案内してくれる。私達への同行を買って出てくれたのは中村さんという気さくなご婦人。なんと大阪は住吉の出身という。どんな質問にも答えてくれた上に「久々に熱心な観光客に巡り会えて、語り部冥利(みょうり)に尽きる」と喜んでくれた。この五重塔は大内氏にゆかりの供養塔という。大内氏は百済王朝の末裔といわれる国際感覚豊かな守護大名で、雪舟を中国に留学させたのもザビエルにカトリック布教を許したのも、その時代の大内氏当主であった。五重塔の前で和服姿の西洋人の新郎と日本人の新婦の姿が。国際結婚だ。「コングラチュレイションズ(おめっとうさん)!」と声を掛けて、写真を撮らせていただいた。
 帰宅後、先ほどの疑問が解けた。ザビエルは1506年生まれ。今年は生誕五百年。そしてまた雪舟没後五百年にもあたる(雪舟は1502年没との説も)。ザビエルと雪舟、二人に深く関わりこの地に国際文化を花咲かせた大名大内氏。隠れキリシタン・大内文化・雪舟庭…。連想したツボは裏・内・庭。当地名産はふぐ。「ふぐは食いたし命は惜しし」と言うが、このツボがあれば怖くない!

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 午後、いよいよ全鍼師会大会の開幕。冒頭の特別講演はうら若く美しい尼僧。今大会のテーマ「みんなで創ろう“安心の文化”」に沿って、安らぎのある人間関係をどう築き上げていくか、を情感込めて語った。川村妙慶師。真宗大谷派の僧侶にしてアナウンサー、インターネット上で日替わり法話を説き、メールで匿名の相談にも乗るという。相談内容で最も多いのはまさに「人間関係の悩み」だとか。後日、私もメールを送ると直ちに返事を下さったのには感銘した。 
 講演の後は分科会に別れての学習。まずは昨年に引き続きスポーツセラピーの部会に出席。国体を筆頭とする各種スポーツイベントへのボランティア参加の報告がなされたが、短時間で効果的な施術をするためには一定のカリキュラムに基づいて研修を重ねることが必須だと教えられた。うーむ、今年の和歌浦ベイマラソン・ウィズ・ジャズ(=ジャズ・マラソン)には間に合わないか…。続いて参加したのは事務局担当セミナー。今年度から社団法人和歌山県鍼灸マッサージ師会の総務局長を拝命した私としてはぜひともじっくりと勉強したい分科会だ。今回のテーマは公益法人の見直しを受けて「新公益法人の必要条件を考える」。我々の業団体が公益法人と認められるためには我々の業自体が一般社会から公益性を認識されるよう日常、努めるべきだ、との思いを強くした。

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 日も暮れゆく頃、この大会を主催する全日本鍼灸マッサージ師会(全鍼師会)の社団法人認可25周年を記念する式典に引き続き、美酒とご馳走が所せましと並べられた懇親の宴の開宴となった。乾杯の音頭にも熱がこもる。
 「山口はわが国の変革の舞台であります。遠くは源平の合戦、はたまた明治維新と。また山口を足がかりに中国地方を手中に収めた毛利元就は、三本の矢のたとえ話で身内の結束を促しました。変革の時代にあって結束を誓い合う場として、これほど適した地はほかにありません…。」
 特筆すべきは今大会に先立って、半世紀を超える歴史を誇る沖縄県師会が新たに全鍼師会に加わり、これで47都道府県のラインアップが出揃ったことだ。  
 宴会の余興として打ち鳴らされる民謡太鼓も心地よく鳴り響いて、山口の夜はいやが応にも盛り上がっていった。

〔裏内庭(うらないてい)〕経外奇穴、すなわち経絡以外の部位の治療穴の一つ。
 取穴:足の親指の隣の指の付け根で足の裏側。内庭という胃経のツボの真裏。
    足の第2指の腹側のてっぺんに墨を付けて指を曲げたとき墨の付く所。
    その指の付け根、足裏側しわから後ろへ3分ほど下がった所に当たる。
治効:食あたり、胃の病気。毒のあるもの、腐敗したものを食べてしまったときに、このツボに熱さを感じるまで灸をすえると吐き出すという。

《作者から一言》
 名産のふぐを山口では「ふぐ」とはいわない。テンテンを取って「ふく」と呼ぶ。同じようにザビエルのことも「サビエル」と澄んで発音する。もう一つ、普通は濁っているのに山口では澄んでいるもの、それは多分「人の心」だろう。一泊二日の親睦と研修の旅の余韻に浸りながら吉田松陰、その弟子・高杉晋作など当地が生み出した幕末、維新の英傑たちの高い志と勇気に想いを馳せた。



 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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