漢方つぼ物語(87)
迎(げい) 香(こう)

 創作漢方落語の「あんまア・ラ・カルト」というお笑いでご機嫌を伺います。
ひと口に「あんま」と申しましてもピンからキリまでございます。先ずはピンの方からご紹介申し上げますというと、「眠りあんま」に「極楽あんま」というのがございますな。「眠りあんま」と申しますのはその名の通り、もんでもらっているうちに、こんころもちが良くなって、ウトウトと眠くなってくる。「おわりました」という声ではっと目が覚めますと体がリフレッシュしておなかの底からエネルギーが湧き出てくる、というのが正統派・眠りあんまでございます。では「極楽あんま」とは如何なるものか? これは「眠りあんま」のさらに上をいく、極上の名人芸でございます。もんでもらっているうちに、ウトウトと眠くなるところまでは一緒なのですが、そこから先がひと味違うのでございます。すやすや眠っているうちに、夢を見る。その夢の中で極楽が体験できるという、有難いやら、勿体ないやら、生きながら成仏できるあんまなんですな、これが。
 あれ? わし、確か今、あんましてもろてたと思うたんやが、いつのまにやらえらい広々とした綺麗なとこへ来てるな。蓮の花が咲いてるぞ。あ、こんな処で縫い物をしているお方が居る。
「もうし、あんさん、まるで阿弥陀さんみたいな格好してますな。」
「ワタクシ、阿弥陀さんみたい、やのうてホンマの阿弥陀如来でおます。」
「ほな、ここは極楽でっか? 極楽でも縫い物しますのんか?」
「昔から“西方(裁縫)浄土”といいますがな。いえね、お釈迦さんがこの頃、夜釣りなさるので、風邪引かんようにどてらを縫うてますのや。」
 なるほどなあ。お、あそこで釣り糸を垂れてはる方がお釈迦さんやな。
「お釈迦はん、どうでっか? 何が釣れますのん?」
「地獄の亡者を救い上げようと思うておるのやが、なかなかうまいこといかん。さっき、カンダタっちゅう男を、もうちょっとで救えそうだったんや。こいつ、極悪人なんやが小さい生き物を助けたことがあるので極楽へ釣り上げられるかいなと思うたんやが後ろから同じように釣り糸にすがりついて来た亡者どもに『こら、この釣り糸はわしのやぞ!便乗しようとは厚かましいやないかい!』とおがったとたんに糸が切れてしもうた。自分だけ助かろうというのはここでは通らんのでな。残念、残念。」
 なるほどと感心したところで目が覚めるというのが極楽あんまでございます。

***

 それではあんまの中でもキリ、つまり下手なほうはどんなんかと申しますと、「叩きあんま」というのがその一つでございます。技術のなさをごまかすためにパンパンパンとひたすら叩きまくるのが叩きあんま、ここでこの際ハッキリと申し上げておきますが、あん摩マッサージ指圧と申しますのは国家資格でございます。少なくとも3年間専門学校もしくは盲学校の理療科に通いまして猛勉強の後、国家試験を通って厚生労働大臣から免許証を頂き、はじめてできるスペシャリスト。ですから、叩きあんまはたいてい、無免許・無資格と思ってまず間違いありませんな。もうひとつ、キリのあんまの例を挙げますというと「皮むきあんま」。あんまは主に指でもむのでありますが、このときに指の腹をツボにしっかりと押し当てて、金輪際ぶれることなくもみますとコリがほぐれてくるのでございます。このとき指の位置がしっかり定まっていないと、もめばもむ程に、皮がよれてめくれてむけてはがれてひりひり痛むことになります。これが皮むきあんまでございまして、下手なあんまの代名詞でございます。

***

 さてこのところ客足の遠のいたあん摩師が、腕組みして考え込んでおります。
 「あーあ、このごろ流行らんなあ。いっぺん看板書き換えたろ。なにがええやろ…今、エステが流行っているというぞ。『美人になるあんま』うそっぽいな。『痩せるあんま』もうひとつパンチが足りんな。えーと、『お肌が若返るあんま』『美肌のあんま』これや、これでいこ!」
 この男、あん摩師よりコピーライターの方が向いてるようで、「美肌のあんま」の看板に惹かれてお客さんがおしかけます。それは結構なのですが、肝心要の技術が追いつきません。翌日には、治療を受けた客がたいへんな剣幕で文句を言いに参ります。
「ちょっとぉ、これ見てよ。赤べこになってるでしょ。どうしてくれるのよ。美肌どころか、玉のお肌が台無しじゃないの!」
 自分で玉の肌とはたいへんな自信。しかしこの男も口では負けておりません。
 「お嬢さま、この治療は一回や二回では効果が出ません。」
 「ええっ? こんな治療を何回も受けろって言うの?」
 「はい、気長に治療を重ねて頂きますと、一皮むけてキレイになります!」
 お後の用意が宜しいようでございます。最後に一言、治療は免許のある治療師であることをお確かめの上、お受け下さいますように!

  〔迎香(げいこう)〕人差し指から肘・肩を経て下歯ぐきを巡る大腸経の最終穴。
 取穴: 鼻の穴の真下から外に引いた線と、鼻の横のしわとが交わるところ。
治効: 便秘すると肌が荒れる。胃腸を整え、全身とりわけ顔面の皮膚を潤す。

《作者から一言》今回のつぼ物語は「無免許・無資格治療追放キャンペーンのための創作落語」です。初当選以来、私ども社団法人和歌山県鍼灸マッサージ師会の顧問をつとめて頂いている総理大臣補佐官で参議院議員の世耕弘成さんは広報のエキスパート。和歌山県と共催の学術研修会の講師にお招きしたおり、鍼灸マッサージが国家資格であることをPRする具体的方法につきアドバイスを求めました。第一に無免許治療による事故例をPRすることにより世間一般に対して危険性を警告すること、さらに国家免許を有するわれわれが常々から学問・技術の研鑽に励んでいることをPRする、またインターネットについては、既に9,000万人が利用している携帯電話を介しての広報活動の方策を探る、という3点にわたる貴重な助言が得られました。これらを一つずつ着実に実行に移すことによって、運動の成果を上げて参りたいものです。 (宮本)

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上は迎香の図

 ●この文書は、当会会員である、宮本年起氏の創作です。

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